for little princess01


 ほんのりとしたオレンジの色が窓ガラスを通って、廊下に差し込んでくる。各部活動もほぼ終
わり、ベローネ学院中等部のほとんどの生徒が下校する時間だ。
 誰もいない廊下を、久保田志穂が足音を忍ばせるように歩く。短めに切り揃えられたショート
カットの下で、いつもうるさいほどに愛嬌を振り撒いている童顔が、そこはかとなく、後ろめたさ
に沈んでいた。少し小柄な体躯と相まって、中学校へ迷い込んでしまった小学生のように見え
なくもない。
 自分の教室のドアを開け、人懐っこい大きな目でキョロキョロと中を見渡した。予想通り誰も
いないことを確認して、ほっと安堵の溜息をつきながら、後ろ手にドアを閉める。
 夕焼けの光に押され、薄い影を床に貼り付ける机の群を廻り込むように、窓際に面した列へ
と向かう。志穂は、先程校門の前で別れたばかりの親友の机の前に立った。
(なぎさ……、ゴメンねゴメンねゴメンねっ)
 心の中で早口で謝り、カバンの中から取り出したお詫びの品を、そっと彼女の机の中へ入れ
た。志穂がなぎさの趣味を考えて、一生懸命悩んだ挙句に選んだものだが、明日になれば、こ
の誰からのものか分からないプレゼントに、きっとなぎさは戸惑うことだろう。
(ゴメンね、なぎさ)
 最後にもう一度だけ謝って、カバンを横の机へと置き、なぎさの机に擦り寄った。窓から射し
込む今日最後の日光が夏服に染み込んで、志穂の肌を火照らせた。
「ん…っ」
 スカート越しに、机の丸みを帯びた角に股間を押し当て、硬い木の感触を秘所に食い込ませ
る。「なぎさ……」と親友の名が口をつく。志穂は、机の両端を左右の手で掴んで、動かないよ
うに固定しながら、ゆっくりと腰を揺すり始めた。
 放課後の部活動で健全な汗を噴いた体に、今度は、卑猥な興奮を匂わす汗が滲んできた。
我慢できない性欲の疼きに、チームメイトとの切磋琢磨に励んできた志穂のうら若い体が、あ
さましく支配されていった。
「…うくッ…うっ……うっ……んっ、んっ……」
 押し殺しているはずの喘ぎは、静か過ぎる教室にはひどく響いた。
 志穂は、股間を角にグリグリと押し付け、親友を汚す背徳行為と背中合わせのフェチシズム
に昂ぶりながら、いつもなぎさが座っている机との疑似性交に酔った。
「だめ…なぎさ、どんどんエッチな気分になってく……」
 席に着いたなぎさの姿を思い浮かべながら、腰を動かすスピードを速めた。大切な親友への
裏切りだと分かっていても、秘所の奥から湧き上がってくる淫らな気持ちが止まらない。
(なんで……こんなことしちゃうんだろ? 私、なぎさのことすっごく大切な友達だと思ってるのに
……。どうして、なぎさの机よごしちゃうようなヒドイ真似するんだろ?)
 誰からも好かれる彼女のまぶしい笑顔を思い出し、対照的に志穂の心が暗く沈む。なのに、
腰を動かすのをやめようとしない自分に、蔑みの気持ちが湧いた。
 机の角に股間をこすりつけながら、なぎさの姿を何度も脳裏に描く。自らの手で友情を貶め
つつ、理性を快楽で麻痺させていった。
「…ぎさ…なぎさ……なぎさぁっ」
 喘ぎ声に切なさが増した。下着の内側は、すでにいやらしい分泌液で濡れそぼっている。快
感の虜囚と成り果てた志穂は、さらに強い刺激を求め、腰を強く突いた。ガタッと机が揺れ、同
時に教室のもう一ヶ所で同じような音が鳴った。
(誰っ!?)
 一瞬で凍りついたように静まり返る教室内。
 志穂が血の気の引いた表情で教室を探った。不安げに彷徨っていた視線は、教壇の位置で
止まった。そのまま志穂は固まってしまい、ただ無言の時が重く過ぎていく。
 重い沈黙に耐えかねたかのように、やがて、この教室にもう一人いた人間が、教壇の裏から
悪びれた声を上げた。
「……ははは、その…ごめんね、志穂……」
 聞きなれた声に、志穂がハッとなった。
 教壇の裏からゆっくりと立ち上がった女子生徒は、志穂にとって、なぎさ以上に親しい仲であ
る高清水莉奈であった。
 中学生にしては長身の方で、すっきりと目鼻立ちが通った面持ちは、少し大人びた感じだ。
長い髪は、動きやすいように頭の後ろで左右に分けて束ねている。
「なんで……莉奈がここにいるの? 確か用事があるからって、私達よりも早く着替えて帰った
はずでしょ……・?」
 志穂の声は虚ろだった。なにしろ、同じ教室内に莉奈がいたにもかかわらず、なぎさの名を
呼びながらの自慰行為に耽ってしまったのだ。親友に欲情して、犬のように腰を振る姿を晒し
てしまった志穂のショックは大きい。
 そんな志穂から目をそらし、莉奈はバツが悪そうに笑った。
 莉奈は両手で抱きかかえていたカバンを教壇の上に置いて、志穂のいる方に足を向ける。
卒倒しそうなほど青ざめてしまった志穂に柔らかく笑いかけ、なぎさの机を指差す。
「実は、私もそれやろうとしてたの。そしたら、誰かが来る気配がして、慌てて教壇の後ろに隠
れて様子窺ってたら志穂の声が聞こえて……」
 射しこんでくる夕日のせいで分かりづらいが、莉奈の頬は若干赤く染まっていた。
「……盗み聞きなんてするつもりなかったけど、その……志穂の声聞いてて、私…ちょっと興奮
しちゃって……」
 自分の右手にチラリと視線を落とした。莉奈の視線を志穂も追う。意味を察した志穂の前
で、莉奈が恥じらいの笑みをこぼした。
「教壇の裏で、私も志穂と一緒に……しちゃった……」
 わずかに生まれた無言の間を縫うように、莉奈が志穂のすぐ側まで近づいた。一番の親友
の顔を覗き込みながら、ニッコリと笑う。
「だから私も、志穂と共犯」
「莉奈……」
 志穂の表情に、安堵の色が広がっていく。それを見ながら、莉奈がふと思いついたように、
志穂の耳元に口を寄せて囁いた。
「ねぇ、志穂……二人っきりなんだしさ、もっと大胆に続きやっちゃおうよ」
 口調のトーンを甘く落とし、提案の続きを口にした。途端、志穂が仰け反って、激しく首を横に
振った。
「だめだめだめッ! そんなのだめだってばッ!」
「シ…シーーーーッ、声大きいっ」
 あたふたと慌てながら、莉奈が教室の出入り口を窺う。……まぁ、今の時間帯であれば、誰
かに聞きつけられる心配も無いのだが。
「と…とにかく、志穂には強制しないけど、私はするから……」
 莉奈は自分の提案に従って、スカートのホックに手を伸ばした。躊躇っていた志穂も、やがて
諦めの溜息をついて、莉奈に追随した。
「私達、共犯仲間なんだし……」
 莉奈がスカートを脱いでいくのを目で追いながら、志穂も続く。湿りを帯びた下着にも手をか
け、さすがに顔を『かぁ〜〜っ』と真っ赤に上気させて、動きが止まる。一方、莉奈の方は、た
いして気にするでもなく、スルリと大胆に下着を下ろしていた。
(きゃっ、やだっ)
 普段、クラスメートのみんなと共に学業に勤しんでいる教室で、莉奈が白い下半身を丸出し
にしている。中学生とはいえ、部活動で鍛えた筋肉に支えられる足腰は、瑞々しい肉感の張り
具合を引き締まったラインの内側に収め、大人の女性には無い初々しい色香を醸していた。
 下半身だけを剥き出しにした親友の姿は、同性である志穂にとっても煽情的なものだった。
ちらり…と盗み見るように投げかけた視線が、そのまま莉奈の下腹部の繁みに吸い付いてし
まう。
(ん? 志穂……、なんか、じ〜〜っとこっち見てるけど……)
 見られることは別に構わないのだが、ここまでじっくり見つめられると、ちょっと恥ずかしい。
「志穂〜…」
 一番恥ずかしい部分をまじまじと覗かれながらも、じっと耐えていた莉奈が遠慮がちに声を
上げた。その声に、志穂が慌てて莉奈の股間から目を逸らし、謝った。
「そ…そのっ、ご…ごめんっ…」
 覗いていた方も、覗かれていた方も、同様に顔が赤い。
 いったん脱ぐのを中断していた志穂も、莉奈の視線に晒されているのを承知で、いさぎよく下
着を下ろした。莉奈と同じく、部活動の成果で、しなやかに仕上がった足腰。ほどよく脂肪を実
らせたヒップが、中学生にしては少々なまめかしい。
 教室内で、なんだか妙なムードで二人っきり。しかも二人とも下半身は…………。
(こんなのって……夢でも見てるみたい……。教室で……なぎさの机の前で、莉奈と一緒に大
事なトコ丸出しにして……。莉奈も、さっきの私みたいに……)
 莉奈の視線をたどり、やはり志穂の股間へと注がれているのを見て、頬がますます熱を帯び
る。
 思春期の少女にとって、いやらしく濡れている性器を覗かれるのは、頭がクラクラするほどに
恥ずかしかった。だが、相手が莉奈なんだと思うと、なぜか、隠したいという気持ちにはならな
い。
 志穂が見ていた時間よりも、ずいぶんと長く見られている。ちらちらと莉奈の顔と自分の股間
を見比べながら、いつの間にか、胸の内に小さな嬉びが芽生えているのに志穂は気付いた。
 気恥ずかしそうに、そっと微笑む。
(ホントはすっごく恥ずかしいんだけど……そんなにいっぱい見てもらえると、ちょっと嬉しいな
……)
 志穂の心に連動して、腰の奥が『じゅんっ…』と熱くなって、嬉びの証が活発に分泌され始め
る。体内に収まりきれなくなったそれは、処女の縦筋から漏れて、内ももに糸を引きながら伝い
落ちていった。
 莉奈の見ている前で、志穂は自分の手をおずおずと秘所に這わせ、恥毛の繁みを濡らして
いた蜜を指ですくい上げた。そして、いやらしい蜜にまみれた手を、ゆっくりと莉奈のほうへと伸
ばした。
「見て見て見て……、私、莉奈に見られてる最中もずっと溢れっぱなしで……、なんか…こんな
に濡れちゃった……」
「もう、志穂ったら……」
 顔を見合わせながら、クスクスと二人で笑みを交わした。
「ほら、志穂、早くしよ」
 莉奈が窓際に配されたなぎさの机を動かし、体の入り込むスペースを作った。ちょうど志穂に
対して、対角の位置に立つ。沈みつつある夕日を背に、莉奈は軽く腰を落として、机の角に濡
れた股間を押し当てた。
(あっ…)
 なぎさの机が汚される事に小さな嫌悪感を覚えて、志穂は軽く目をそむけた。
「志穂…?」
 訝しげな声には答えず、志穂は無機質に机の角へ腰を寄せた。だが、潤んだ秘所を机に擦
り付けた途端、腰の奥から快感の疼きが響いて、志穂の体を発情させていく。罪悪感を深く体
に刻みながらも、悦楽に耽ろうとしている自分のあさましさに、志穂の心が痛んだ。
(私…やっぱり、ダメ……!)
「……なぎさっ」
 嗚咽のような声が志穂の口から洩れた。泣き出しそうな顔を莉奈へと向けて、志穂は続け
た。
「莉奈…、私、私…私……」
 莉奈は穏やかな表情で志穂の想いを受けた。
「……志穂はなぎさのこと、好きなの?」
 志穂は何も答えられなかった。ただ、すがりつくような眼差しを莉奈へと向け続けた。
「分かるよ、志穂の気持ち。なぎさって性別とか関係なくステキだもんね。私もね、なぎさとだっ
たら、キスぐらいしてもいいかなって思ってる」
 逆光の影の中で、莉奈が表情をほころばせた。瞳に柔和な色をたたえて、志穂の視線をじっ
と受け止める。