大空の樹の下で 01


 空はうっすらと夕焼けに染まっていた。
 今日の部活を終えて、暮れ時も近い。目の前にあるトネリコの森は、もう夕闇の底に沈んでし
まって随分と暗い。
 日向咲は、空を見上げていた眼差しを足元へと落とした。制服姿の影絵が長々と地面に伸
びていた。
(影のくせに、あたしよりもスマートで脚長いな…)
 ソフトボール部の猛練習で太くなった脚も、あれくらい細くなってくれたらなどと、ヒマを持て余
している咲は、自分の影を眺めながらそんなことを考える。動かないでじっとしているのは、何
だか居心地が悪い。
(そういえば、舞って何でいつもあたしの絵ばかり描いてるのかな?)
 取り留めのない思考の隙間に浮かんだ美翔舞の笑顔。
 影を鏡代わりに自分のスタイルを観察するが、数秒後、
「舞みたいな綺麗な女の子がうらやましいよ」
 と、敗北宣言を口にして、咲は大きな溜め息をついた。
 外見的には、飾り付きのヘアピンで髪型をいじって女の子らしさをアピールしている程度だ
が、闊達な性格と笑顔の愛くるしさにかけては、彼女のいる夕凪中学において不動の一位を
占めている。しかし、本人はその事には全く無頓着なようだ。
 ふと、咲の大きな瞳があたりをキョロキョロと見渡した。いったん家に帰ってシャワーを浴びて
汗を流してから、自転車を飛ばしてこの“大空の樹”の下までやってきたのだが、ただこうやっ
て樹の傍に佇んでいるだけでもう何分経ったことやら。
(はは…、何やってるんだろ、あたし…)
 咲の心の中の苦笑に、“大空の樹”の葉擦れの音が重なった。
(“大空の樹”にも笑われちゃったことだし)
 咲があきらめて、“大空の樹” のすぐ脇にある小さなお堂の前に停めてある自転車へと向か
おうとしたちょうどその時だった。
「咲――っ」
 突然響いた声に、咲が体ごと振り返った。
 自転車のペダルを勢いよく踏み込みながらこちらへと向かってくるのは、親友の伊東仁美
だ。彼女もまた咲と同じく制服姿のままだった。
 緩やかにブレーキをかけながら咲の自転車の隣に停まって、仁美が額の汗を拭った。
「咲、もしかして結構待った?」
「ぜんぜん」 
 咲が、自転車から降りようとする仁美へと近づき、彼女の体に顔を寄せて、くんくんと匂いを
嗅いだ。
「あーっ、仁美お風呂入ってきてないでしょー」
「えっ、マジ臭うっ?」
 しまった、という表情になる仁美に、咲が「仁美の汗の臭いなら平気」と笑いかけた。
(本当は、仁美の汗の臭いにドキドキしてるんだけど……)
 さすがにそこまで言うと変に思われるような気がして、咲は、そのくすぐったい想いを笑顔の
裏にひそめた。仁美に気付かれないように汗の臭いを嗅ぎながら、ぴったりと彼女の隣に寄り
添う。
「……それよりも、来てくれたんだ。約束もしてなかったのに」
「なんとなく…ね。もしかしたら、咲が来てるんじゃないかなって、そんな気がして」
 二人並ぶと、仁美の方がちょっとだけ背が高い。咲が、わずかに潤んだ瞳で仁美を見上げて
くる。そして、視線が合うとニッコリと笑った。
(カ…カワイイ……マジカワイイ……)
 天然の可愛らしさが仁美をノックアウトした。
「……? 仁美、どうかしたの?」
 はっ…と我に返った仁美が、シャンプーのいい匂いに鼻をくすぐられながら、小さくツバを飲
み込んだ。
「う…ううんっ、別に。……さっ、早く済ませちゃお」
 時間を気にしてか、いつもより性急に咲の手を引っ張る。
「ちょ…ちょっと待ってっ」
 咲の手が小さな抵抗を示した。仁美の押しの強さに、やんわりと拒絶の意志を覗かせる。
「ね…ねぇ、仁美、する前にもっと話とかしようよ」
「そんなことしてたら、もう夜になっちゃうじゃない」
「でも……」
 なおも渋る気配を見せる咲に、仁美が肩をすくめて苦笑した。
「いつもみたいにもっとムードが高まってからじゃないと、エッチなことさせてもらえないワケ?」
「えっ? そ、そんなんじゃ……」
 胸の前で左右の人差し指をつつき合わせながら、上目遣いで仁美を見る。頬を赤らめて、も
じもじと恥じらいの仕草を続ける。
(咲……)
 急に胸の鼓動が大きくなったような気がした。
 ごく自然に、仁美の手が咲のおとがいに触れた。わずかに力を込めただけで、咲の顔が上を
向く。
 こぶし一つ分程度の二人の顔の距離を、仁美がそっと埋めた。
 咲の唇に、初めて他人の唇の感触が伝わった。
 仁美がゆっくり顔を離すと、咲はポカンとした表情で固まっていた。そして、数秒置いて「あっ
…」と小さく洩らした。さらに、それから数秒後――。
「あ――――――ッッッ!!? もしかして今キスしたっ!?」
 あまりの大声に驚きながらも、仁美は、はっきりと頷いてみせた。
「うん。…しちゃった」
「しちゃったって……あたしたち、女の子同士だよっ!?」
「その『女の子同士』で、いつもエッチなことしてるんじゃない」
「エッチなこととキスとは全然別でしょッ!」
 さっきまで恥じらいを見せていたのが嘘のように、激しい表情で仁美に詰め寄る。
「ご…ごめんっ」
 その剣幕に気圧されて、二、三歩後ずさりした仁美が、しゅん…と肩を落としてうなだれる。
 腰の両脇に両手を突いて、怒りを溜め息に換えて吐き出し、一瞬考え込むように両目を閉じ
た咲だが、
「……ファーストキスだったんだけど、ま、いっか。仁美とだしね」
 一転してコロリと表情を変えて笑顔を見せる咲に、仁美が拍子抜けした顔で「えっ…?」と洩
らした。
 ついさっきまであんなに怒っていたのに、もうニコニコしている……。
 安心して神経が弛緩した途端、キスする前の胸の高鳴りがよみがえってきた。
「だいたい、マジ可愛すぎる咲がいけないのよ」
 唇をとがらせて文句を言うと共に、仁美の両手が咲の腰の裏に回る。スカートの上から、柔ら
かな尻肉の手触りを愉しむ。さわさわと撫で回されてくすぐったいのか、咲が制服をキュッと掴
んできた。
「わたしね、咲のカラダの中で、このお尻が一番好き。お餅みたいに柔らかくって、さわってると
すごく気持ちがいいの…」
 咲の尻全体にまんべんなく手を這わせながら、耳元でささやいてやる。息が耳にかかったの
か、咲がゾクッ…と身を震わせた。
「…でも、咲、お尻にばっか肉つけてないで、ちょっとはこっちにも肉つけてよ」
 仁美の右手が持ち上がって、制服の上から咲の胸をさわった。よしよしと、同情して慰めてい
るような仁美の手付きに、咲が「もうっ」とふくれる。
「あははっ、咲、冗談だから。……うん。わたし、実はこっちも結構好き」
 仁美の指が、まだ膨らみかけの乳房をまさぐって、乳首の位置を探り当てた。
「あぁッ!?」
 咲の膝がガクッと崩れそうになった。制服の上から触れたのにもかかわらず、敏感な反応を
示す。
「ほら、胸の先っぽいじってあげるとカワイイ声で啼いてくれるしさ」
 左手も持ち上がって、咲の制服の裾をいらう。
「やだっ…!」
 ハシッと咲が両手で仁美の腕を掴む。仁美の行動を制止しようとしたのではなく、恥ずかしさ
に負けて思わず手が出たという感じだ。
「大丈夫大丈夫、こんな時間に誰も来ないってば」
 仁美が制服をめくり上げていく。かわいいヘソが露出したのに続いて、幼い胸を包むスポー
ツブラが覗いた。そのスポーツブラにも仁美の手がかかる。
「うぅ…」
 焼けるような羞恥心に、咲がギュッと両目を固く瞑る。スポーツブラもめくり上げられ、小さな
ふくらみが仁美の目に晒された。なだらかな頂点には薄桃色の乳輪を咲かせ、つんっ…といじ
らしく乳首を勃たせている。
(カワイイカワイイ♪)
 仁美の胸が小躍りする。立てた人差し指を右へ左へと迷うように動かして、
(えいっ…と)
 まずは右側の乳首を『くにっ』と突っついた。
「あうぅっ!」 
 咲の口から快感の声がこぼれ、同時にビクンッ!と上半身がやや前のめりに折れた。
 続いて、左の乳首を『くにくにっ』と転がしてみる。
「あんんッ!」
 たまらなく可愛らしい表情で咲が喘ぐ。
「やだっ、仁美…だめぇ……」
 仁美の両手の指が、咲の胸の先でわななく乳首を二つ同時に摘み上げた。指の間で、充血
して固くなった乳首をコリコリと転がして弄びつつ、快楽に溺れていく咲の表情を窺う。
 初めての時は、きつく閉じた両目の上でギュッと眉を寄せ、喘ぎ声を聞かれるのを恥ずかし
がって強情に口を閉ざし続けていた咲。しかし、仁美と逢瀬を重ねるうちに、素直に悦びを表
情に出し、カラダの気持ちよさを口に乗せるようになっていた。
「あっ…、ダメだよ仁美ぃ、そんなにいじられたら…あぁんっ…立って…られない……」
 咲が、両ふとももをもじもじと擦り合わす。時折、膝が震えて、がくんっと腰が砕けそうになる。
「こ〜ら、まだ指でいじってるだけじゃない。…それとも、今日はコレいらないの?」
 うっすらと開かれた咲の視線の先で、仁美がちろりと舌を出して自分の唇を舐めて見せた。
咲の目に潤みが増して、仁美と眼差しを合わせたままコクン…と頷いた。
 仁美が指の動きを止めて、咲に微笑みかける。
「じゃあ、この前教えたおねだり……やってみせて」
「え〜〜っ、アレ恥ずかしいよ」
 思わず素に戻って声を上げた咲の乳首を、仁美の指がキュッとひねり上げた。
「ひぃっ! やる…ごめんなさいっ、やりますっ!」
 仁美のお仕置きに身を怯ませた咲が、慌てておねだりの言葉を口にした。
 ほとんど肉付きの無い乳房を、下から回した両手で精一杯持ち上げてアピールしながら、
「パンパカパンのマル秘メニュー、このあたしのおっぱいをどうぞお召し上がりくださいっ」
 恥ずかしいのか、咲はやや早口で言い終えた。仁美の視線から背けた顔は、哀れなほど真
っ赤になっていた。
 ちゃんと言えたご褒美に、仁美がほっぺたに『ちゅっ』とキスしてやった。
「もう、そんなに恥ずかしがらなくったっていいじゃない。それに、ほら…、胸を吸われる前か
ら、そんなに足ガクガクさせてどーすんの?」
「だって、ガマンできなかったもん…」
 仁美に吸ってもらえる、という期待だけで腰の奥が軽い絶頂を迎えていた。胸に口をつける
ために身を屈めた仁美の両肩に左右それぞれの手をついて、身体が崩れ落ちそうになるのを
何とかこらえる。
「ハァ…ハァ…」と昂ぶった呼吸でいつもより早く上下している胸の先端を、仁美の唇がそぉっ
とついばんだ。優しい刺激にもかかわらず、咲の背がビクッと仰け反った。
「はあぁっ、ああ゛ぁぁーっ」
 抑えようのない喘ぎが、咲の口を大きく割った。両手の指が仁美の肩に食い込む。
 咲の悦びは、仁美にとっての最高の嬉び。
 咲の乳首を『ちゅるっ』と滑らかな音を立てて吸い出し、歯で咥えて逃げられないように固定
する。
「ひッ!?」
 敏感さが剥き出しになった部分に歯の硬さを受けて、咲が頭をブンスカと左右に振った。
「嫌――ッ! 噛んじゃダメ噛んじゃダメェ――ッ!」
 ……咲に悪気は無かったが、取り乱したついでに、仁美の頭をバシバシと手で叩いてしまう。
(噛まないってば!)
 ちょっとムッとした仁美だが、咲を気持ちよくしてあげたいという想いは変わらない。歯で挟み
込んだ乳首の先っぽを、仁美の舌先がチロチロチロ…と細かい動きで舐め洗う。
「はうぅ…くぅぅーッ! 仁美…乳首がぁぁ……ダメ……はぁンッ! 乳首が…溶けちゃうよぉっ」
 乳首よりも、咲の喘ぎ声の方こそ溶けていた。とろん…と妖しく潤んだ両目を開いて、すぐ真
下にある仁美の頭に眼差しを注ぐ。
 咲の両手が、仁美の頭を愛しげに撫で回した。
「あんッ、仁美ぃ…、あたしのおっぱい……美味しい?」
「…んっ」
 仁美は乳首を口に含んだまま首を縦に振った。『ちゅぷっ…ちゅぱっ…』と唾液を跳ねる音を
立て、休む間もなく咲の胸にむしゃぶりついている。
(そっか……美味しいんだ。……なんか嬉しいな)
 一瞬、咲の顔に無垢な笑みが浮かんだが、すぐに淫らな悦びの表情に呑みこまれた。
「はぁ…あぁんっ! 仁美っ、ダメっ、そんなに舌で転がされたら、あたし……パンツの中、ビシ
ョビショになっちゃうっ」
 胸の先端は、左右平等に、むず痒いほどの快感で狂わされていた。たまらず身を引こうとす
るが、その動きを仁美に察知され、きつくカラダを抱きすくめられる。こうなると、上体を仰け反
らして逃れることさえ出来ない。
「ふあぁぁ…」
 咲の口から弛緩気味な喘ぎ声が洩れた。ぷっくりと勃起した乳首を延々と舐め転がされ、生
殺しの快楽に骨抜きにされてしまったようだ。
(咲……)
 仁美の胸を常に占めている咲への「好き」という気持ちが、どんどんと膨らんでいく。
 咲にもっと気持ちよくなってほしくて――『ぢゅるるるっ』と大きな音を立てて、思いっきり乳首
を強く吸った。
「ああ――ッ!? あッ!? ああ゛ぁぁっ……」
 咲の全身が激しくガクガクッと震えた。余韻で尚(なお)も腰の辺りがぶるっ…ぶるっ…と痙攣
している。
 ようやく胸から顔を離した仁美が上を向くと、咲は無音の喘ぎ声を洩らしながら口をぱくぱくと
させていた。
 仁美が背筋にゾクゾクと嬉びを立ち昇らせて、微笑みを浮かべた。
(乳首だけでイッちゃった……。マジ気持ちよかったんだ、咲)
 せわしく上下する咲の胸先には、てらてらと、なまめかしく色付いた二つの乳首。仁美の舌先
が幾重にも唾(つば)をすり込み、丹念過ぎるほどに唾液化粧を施したせいで、まるで娼婦の
モノであるかの如くいやらしい……。
 仁美が口をすぼめて、息を「フゥッ…」と乳首へ吹きつけると、びくんッ!と咲のカラダが過剰
に反応した。
「咲、胸の先っちょ……どんなカンジ?」
 咲は何度か荒い息をこぼして、しゃべれる程度に呼吸を整えてから答えた。
「まだジンジンして……うずいて……やだっ、また腰の奥が変になってきた……」
 そう言って、咲は下半身をもぞもぞと悶えさせた。舌愛撫の余熱だけで、もう一度達しそうに
なっているようだ。がくがくと今にも崩れそうな膝が危なっかしい。
「仁美……その、お願い……」
 消え入りそうな声で咲が言った。そして、仁美の手が動くよりも早く、自分の手でスカートの両
端を摘んで、ゆっくりとめくり上げた。咲は顔を真っ赤にしながらも、滴(しずく)を垂らすほどに
濡れそぼった恥ずかしい下着を、仁美の目に晒した。
 ぐっしょりとショーツに染み込んだ愛液の濃厚な匂いが、仁美の鼻を突く。
 仁美がごくっと息を呑んで、体を沈めた。どうやら、さっきの絶頂時に潮を噴いたらしく、ショー
ツは愛液でひたひた、両太ももの内側をべっとりと汚しながら、滴が脚を伝い落ちていた。
 仁美が顔を近づけようとすると、「あっ…ダメっ」と咲がよろよろと体を引いた。しかし、仁美が
しゃがんだまま両腕を伸ばして、咲の腰を捕まえて優しく引き寄せた。
「咲、大丈夫」
 その一言で、咲の懸念を否定する。
「全然臭くなんてないから。むしろ、咲のイヤラシイ匂いで、わたし……興奮してる」
 そして、咲の腰を掴んでいた両腕を解き、彼女の右足へと絡ませた。鼻をくっつけるようにし
て、上から下へ、咲の脚に沿って顔を動かす。
 反対側の脚も同様。
 仁美は大丈夫だと言ってくれたが、それでもスンスンと子犬のように匂いを嗅がれるたび、咲
は顔をしかめて、死にそうな恥ずかしさを必死でこらえた。
 左足のふくらはぎまでの匂いを堪能し終えた仁美の顔が、今度は咲のショーツに吸い寄せら
れた。深く嗅げば嗅ぐほど、愛液の生々しい匂いが、濃密に鼻を突いてくる。
「咲…もっと脚広げて…」
「む…無理ぃ〜〜。パンツ見せてるだけでも相当恥ずかしいんだよっ」
 自分の手でスカートをめくり上げた時点で、咲の羞恥心は限界に達していたらしい。仁美の
注文に対して、頑として首を横に振る。
「いいじゃない。こんなにエッチな匂いでわたしを誘ってるのは咲なんだし…」
 仁美が咲の内股へ両手を差し入れて、強引に脚を押し広げようとする。
「ちょちょちょっと仁美仁美ッ! あっ…やだやだやだやだッ!」
 咲はみっともないほど慌てふためきながら、仁美の手から逃れた。よたよたと後ずさり、どん
っ…と“大空の樹”に背をぶつけてしまう。さらに、ごつっ…と後頭部まで打ち付けるのを見て、
仁美はイヤラシイ気分も吹っ飛び、深々と溜め息をついた。